大ノ宮勝未

 四月。

ここ、城丘小学校では始業式が行われ、児童は皆新しい教室に向かっていった。
その中に一際目立つ男子児童がいた。

何故目立つのか。

歩けば『ふわっ』『さらっ』といった擬音がつくやや栗色の髪。

整った顔立ち、笑顔はまるで女の子のようで、話せばやさしく甘い声。

しかし、毎年学級委員に選ばれるほどのリーダーシップがあり、成績優秀、運動神経良し。
友好関係も良く彼を悪く言うものは、いまだかつていない。

そんな彼の名は大ノ宮勝未。今年5年生に進級した。

「起立、礼、着席。」

 先生の号令で新しい席に着く。

クラスは5組。出席番号は3番。前にいる人とは初めて同じクラスになった。

(どんな人だろう。)

勝未は少しワクワクしていた。

 

休み時間、自分から話し掛けようとした瞬間、前の席の人がこちらを向いた。

「オレ、彩ノ瀬洸。よろしくな!」

 白い歯をにかっと見せて笑う。

「僕、大ノ宮勝未。よろしくね。」

勝未もにっこり笑ってあいさつ。すると彩ノ瀬はピタッと動きを止めた。

「な、何?」

「お前さぁ、女の子みたいだって言われない?」

「!」

 勝未はカッとなった。が、しかしこらえてみた。

すると

「あ、悪い。オレさ、思ったことすぐにパッと言っちゃうから。気ぃ悪くしたら言ってな。」

 その一言で勝未は彩ノ瀬はいい奴かもしれないと安心した。そして思ったことを言うことにした。

「うん。少しムッとした。でも、そう言ってくれたからいいや。前のクラスの友達にもそう言われてたんだ。やっぱりそうかな。」

 そう言うと彩ノ瀬は勝未の顔をまじまじと見つめ言った。

「うーん。元の顔が少し女の子みたいなのかな。でも、悪くないんだからいいんじゃない?」

「そう?ありがとう。」

「うん!美人だ!」

「・・・それって女の子への誉め言葉じゃ・・・。」

 と、勝未が少し呆れて言うと、先生がクラスへやってきた。

(うーん。彩ノ瀬君っていい人なんだろうけど、よくわからない。)

悩める少年、勝未。その後彼の受難は更に続くのでした。

 

「え?」

 汗をたらりと流す勝未。

「うん、全員一致だな。よし、学級委員長は大ノ宮勝未君に決定。大ノ宮君。頼むぞ。」

 と、先生。

「は、はい・・・。」

 学級委員長を決めようとした際、前同じクラスだった人が勝未を推薦し、勝未以外の推薦者、候補者が出ず全員一致で決まってしまった。

(どうして?どうしてなんだろう。彩ノ瀬君みたいに今まで同じクラスになったことがない人だっているのに。一学期っていつも僕。何でだろう?)

 そう疑問に思いながら先生に呼ばれるがまま、教壇へ向かった。

「女子の中で副委員長を決めてくれ。」

「はい。じゃあ、女の子で副委員長やってくれる人いませんか?」

 などと言ってはみるが、毎年のことながら名乗り出てくれる人はいない。

やっぱりね、と思い推薦者を聞こうと息を吸ったその時、手が挙がった。

パッとその手の主を見ると彩ノ瀬が手を挙げているのだ。

「あ、彩ノ瀬君?」

「オレ、副委員長やってもいいぜ。」

 と、笑って言う。

「あの、委員長は僕で男だから、副委員長は女の子にやってもらうんだけど・・・。」

「え?そうなの?」

「・・・。」

 次の瞬間、クラスが笑いに包まれた。

 

 休み時間、勝未はトイレに向かった。

「おい、勝未。待てよ。」

 呼ばれて振り返ると彩ノ瀬が走ってきた。

「彩ノ瀬君。廊下は走っちゃいけないんだよ。」

「あっ!しまった。トイレに行くんだろ?一緒に行こうぜ。」

「う、うん。」

 勝未は少し驚いた。名前で呼ばれることは今まであまりなかったからだ。

なんとなく、嬉しい。

「あ!そうだ。さっきさ、オレのこと君付けしただろ。君付け禁止だぞ。」

「え?どうして?」

「オレは名前で呼んで欲しいの?だから、洸ちゃんって読んで。皆にそう言ってるから。」

 と、またあのにかっとした笑いで話してくる。

「うん、わかった。洸ちゃん、だね?」

 勝未が笑ってそう言うと、彩ノ瀬はVサインをした。

 トイレから出ると、勝未の双子の弟雅未がやってきた。

「あれ、兄貴もトイレだったの?」

「うん、またな。」

 お互い手を軽く振ってすれ違う。すると彩ノ瀬が驚いた顔をして聞いてきた。

「誰?あいつ。勝未そっくりじゃん。」

「ああ、双子の弟。雅未って言うんだ。」

「すげーそっくり。こういうのイチレンセイって言うんだっけ?」

「い、一卵性ね。(頭悪いんだろうか。この人・・・。)」

 ちょっと困っちんぐな勝未でした。

 

 その日の帰り、彩ノ瀬と校門まで一緒に帰った。

家は反対方向にあるらしい。

「じゃね。洸ちゃん。また明日。」

 と、にっこり勝未が言うと、校舎の方から彩ノ瀬に向かって叫ぶ者がいた。

「おーい。洸!後で野球やろうぜ!」

「おう!」

 彩ノ瀬もそれに元気よく答える。

「ねえ、洸ちゃん。皆、洸ちゃんって呼んでるんじゃないの?」

「え?ああ、あいつは男だし・・・。」

「僕も男なんだけど・・・。」

「い、いいじゃん。可愛いんだし・・・。」

 すると、彩ノ瀬の友達が次々とあいさつをして帰っていく。男の子は『洸』、女の子は『洸ちゃん』と呼んで。

「あはは〜・・・だって女の子みたいだしぃ・・・。」

「・・・もう!洸ちゃんのばかぁ!」

「うわぁ!ごめんなさいぃ!」


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